特 集
1. 税金滞納と差押問題に関して
税金の延滞が続くと、国や市町村は不動産や自動車などの動産を差押えることがあります。国民健康保険料などの社会保険料も同じですから、保険料だからといって後回しにはできません。税金等の差押えの解除は、抵当権などの担保権の解除以上に難しいですから、任意売却を考えているのであれば、税の差押えは絶対に避ける必要があります。
差押えになっても納税しなければ、差押物件は最終的には公売されることになります。公売の実施主体は裁判所ではなく国や市町村ですが、強制換価ですから競売と変わりません。公売まで行かないまでも、不動産などの差押えは税の基本的には全額(延滞金を含め。)が納付されるまで解除されません、税の差押えは、給料はもちろん、預金や生命保険金などにも及びます。
2. 抵当権と税金差押の優先順位
抵当権などの担保権と税の差押えの優先関係が問題になります。担保権の優先順位は、登記の受付順になりますが、税の差押さえとの関係では、「税の法定納期限」が先であれば、登記の受付日に関係なく税が優先します。
この結果、抵当権などの優先順位は登記受付日と受付番号の順位によるという原則は、税については破られてしまいます。例えば、法定納期限 平成15年3月31日、抵当権登記日 平成15年4月1日、税の差押登記日 平成15年8月30日の場合、税債権の差押えは抵当権の設定日の後になりますが、税債権は抵当権に優先することになるのです。
税は一般債権に優先することから、国税徴収法は「差押さえることができる財産の価額が、その差押に係る滞納処分費及び徴収すべき国税に先立つ他の国税、地方税その他の債権の金額の合計額をこえる見込みがないときは、その財産は差し押さえることができない」と定めています。これが「無益な差押えの禁止」といわれるものです。つまり、回収の見込みのないような税債権の差押はしてはならない、というのが法律です。
同法はさらに、「差押財産の価額がその差押に係る滞納処分費及び差押えに係る国税に先だつ他の国税、地方税その他の債権の合計額をこえる見込みがなくなったときは、差押を解除しなければなれない。」とも規定しています。要するに、国税徴収法は、無益な差押えを禁止するだけでなく、差押えの解除義務までも規定しているのです。
しかし、問題は「無益な差押え」であるかどうかの判断です。この判断は簡単ではありません。裁判所は、①土地等の評価は評価する人によって差があり、また②評価には相当の時間を要するから、厳密に評価していたのでは差押えの時期を失するおそれあるなどの理由で、例え差押えに瑕疵があったとしても無効に相当する瑕疵とはならないとしています。そして、ほぼ全面的に差押えの有効性を認めているのです。
これでは、せっかく抵当権などの担保権者の応諾をえても、税などの差押えがあっては任意売却にはなりません。このように、税金などの支払いを後回しにしてはならないのですが、困ったことに任意売却をする人の多くは、この逆をしています。税金こそ最優先すべきで、税だから何とかなるだろうは誤りで、税だから何ともならないと認識しなければなりません。
3. 競売・任意売却・自己破産後の税金問題
最後に、競売や任意売却をすると譲渡税が発生しないか、という疑問がでてきます。競売も任意売却も物件の譲渡ですから、譲渡所得があれば課税されることは当然です。ただし、「資力喪失の場合の譲渡所得等」という規定があります。この規定によると、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合に、競売等により資産を譲渡し、その対価の全部を債務の弁済に充てたときは、譲渡所得は非課税です。
この規定は、競売以外の強制換価手続、例えば国税等の滞納処分による公売、破産手続きの場合などにも適用されます。競売における資力喪失の考えからすれば、無資力の状態で任意売却し、譲渡した対価の全部が弁済に充てられるのであれば、競売などの場合と同じように考えられますから、任意売却も非課税となるはずです。
なお、自己破産と税の関係ですが、自己破産をすれば税債権も免責されるだろうと簡単に考える人は多いのですが、残念ながらそうはいきません。破産免責後も相変わらず税の請求は続きます。ただし、市町村の場合、延滞税については申請すれば免除される場合がありますが、国税ではこれも難しいです。しつこいようですが、税の差押えは何としても避けなければなりません。課税権者には差押えを好んでするという考えはないのですから、課税義務者が真剣に対応すれば、差押えは避けられるはずです。